2023.04.09
コラム
『スタッフ通信』Vol.16 ~衣装②~

改めまして、第7弾プロジェクト『Frozen II』で衣装を担当したきょうこです。
公演が無事に終わりました。 観に来てくださった方、応援の言葉をくれた方、ありがとうございました。

さて、衣装コラムを書くのは2回目になります。
1回目は制作過程を中心に書いたので、今回はスタッフとして携わることができた感想を綴っていこうと思います。

反省点はもちろんたくさんありますが、これは次への課題にするとして、ここでは良かったことだけ書いていきますね 笑

今回衣装で上手くいったと思う点は
①役者の魅力を引き出せたこと、②キャラクターごとの立場や役割をそこそこ表現できたことです。

①に関して、まずは当劇団のキュートな子役たちを紹介します。
今作のFrozen IIでは、主人公のアナとエルサの幼少期の役がありました。
この役を演じたのが、えまちゃん&わかちゃんの劇団最年少組のお2人でした。(当時えまちゃんは小学2年生、わかちゃんは小学6年生)
とにかく何もをするにも可愛くて、2人が素ではしゃいでいるのを見て何度心が癒されたことか…

そんな彼女たちの自然な魅力をさらに衣装で引き出せないかと、あれこれ試行錯誤を繰り返しました。

登場シーンは、もう寝る時間だけど遊び足りないアナと、本当はアナと一緒に遊びたいけど寝なきゃと思っているエルサが雪だるまを作るところから始まります。
そして父アグナルから魔法の森の話を聞き、母イドゥナの子守唄で静かに眠りに落ちます。
寝る前の平和な日常ですね。
なので衣装としては寝巻きになります。

最初は王室の上品さをしっかり出さなくてはと、タイトめなデザインを考えていました。映画のイメージがそれに近く、どうしても頭にあったのだと思います。
しかし、それだと成長期真っ只中の2人にサイズを合わせるのがなかなか難しい。
また、強みである無邪気さや天真爛漫なキャラクターを生かすには、もっと動きやすくてゆとりのある方がいいのでは?と考えを改めました。

結果的にできたのがこちら
(ちなみに大人アナのパジャマともお揃いです。子ども時代のパジャマと同じデザインってところがすごく可愛らしいですよね)

なんと言っても黄緑と青のカラーがそれぞれバッチリ似合っていて、役者の表情をさらに明るく見せられたんじゃないかと個人的に思っています。
ワンピースは丈を十分に長くとり、襟は別にレースの立て襟を使うことによって上品さも保てたかなと。
お揃いのギャザーの装飾は、実は偶然の産物です。
買ったけど使わなかった布やレースなどが家にあったのですが、上手いこと使えないかと手を動かしていたら突如閃きました。
お揃いのわかりやすい装飾が加えられたことで、アナとエルサの仲の良さも引き立たせることができました。

この衣装ではしゃぐプリンセスたちが本当に可愛らしくて、みんなメロメロでした…!

次に②について
Frozen IIという物語は、キャラクターごとに置かれた立場の違いが重要なキーとなっています。
その最たるものが、
「アレンデール」VS「ノーサルドラ&精霊」
という対極です。

ここを衣装でもちゃんとわかるようにしようと、妥協せずにデザインを進められたのは本当に良かったなと思います。
アナやエルサたちが暮らすアレンデールは、自然が豊かで美しい国です。
その象徴として、緑と紫のビコロールとクロッカスの紋章が国旗に使われています。

そしてアレンデールの兵士の軍服は、緑をベースとした紫の差し色が映える、愛国心と強さを彷彿とさせるようなデザインとなっています。
軍服の衣装案を考える時、私はどうしてもこの色は再現したいと思いました。
まあ思うだけなら簡単なのですが、じゃあどうすればいいのか…
これにはかなり悩みましたね。

例えば黒の学ランなんかは割と安く売ってて手に入りやすいので、それを軍服に加工するのは簡単です。
でも、それだと色のせいでアレンデール王国の兵隊という印象が薄くなってしまう。コストや労力を抑えられるという点では良いんですが、やっぱりどうしても緑にこだわりたい私には、黒を使うことはできませんでした。
なので思い切って生地から作ることにしました。
結果的に深い緑色の高級感あるツイル生地が素晴らしく、マティアスやルナードたちの権威や力強さを表現できたかなと思います。

細かいことを言えばもっと丈は長い方が良かったとか、ルナードのマントがないとか、色々気になることはありますが……
予算には限りがありますからね。
どの要素をマストで取り入れるべきか、コストを考えながら取捨選択できたのが良かったと思います。

そしてノーサルドラ。
彼らのシンボルは、古くから伝わる精霊のエレメントです。
イドゥナがノーサルドラの出身だったとわかる重要なシーンでも、このエレメントの模様が鍵となります。

イドゥナはアレンデールの王妃ですので、ドレスにはクロッカスの紋章が大胆にデザインされています。

しかし彼女のスカーフや上に纏うローブをよ〜く見ると、ノーサルドラを意味するエレメントのようなものが描かれているんです。
そしてアグナル王のジャケットにも、これと同じ模様があるんです。

「……あれ?」
と思いませんか?

どうして敵対している民族のシンボルが、王族の、しかもイドゥナ王妃だけでなくアグナル王の衣服にまでもデザインされているんでしょう?
私はこう考えました。
エルサとアナは、アレンデールとノーサルドラを繋ぐ架け橋。そしてイドゥナとアグナルはこの両者を繋ぐきっかけと なった存在です。
長年にわたる敵対関係から、エルサとアナの正しい行動によって、この両者はやがて手を取り合うようになる。
イドゥナとアグナルの衣装には、そんなメタファーが込められているのではないかと……
なので、これもまた再現したい欲が湧いてしまいました笑

どうやってエレメントの模様を作るか悩む時間は長かったですが、メンバーの協力により型に沿って土台の布にペンで色を塗っていく方法で綺麗に作ることができました。
型を作る人、布を用意する人、色塗りする人、それを縫い付ける人のナイスコンビネーションがとても上手くいきまし たね。
完成したものを見た時はすごく嬉しかったです。

そして最後のアナの戴冠式では、アナだけでなくオラフやクリストフ、スヴェンまでもアレンデールの色を使った衣装を身に付けています。
この先も彼らはアレンデール人として生きていくことが示唆されているのです。
一方で、エルサはノーサルドラの精霊として暮らしていくことになります。
実は、エルサの衣装は冒頭からアレンデールを表す要素が1つも入っていなかったんですよね。その代わり、精霊のエレメントや氷の結晶がどの衣装にも散りばめられているんですね。
ぜひ映画を見返してアハ体験をしてみてください。

衣装には、その人が持っている文化や身分といった立場を表すだけでなく、その人物が何者であるのか、どういう自分でありたいと願っているのか、そういった個のメッセージ性を強く表現していくことも大事だと学びました。

細かいことですが、これらのこだわりを意識して取り入れていくのはすごく楽しかったです。
それと、衣装はこだわった分だけ作品へのクオリティにも直結しますし、何より役者の気持ちをグッと引き締めてくれます。
デートのためにオシャレな服を着てテンションを上げるのと同じですね。とっても大事なことだと思います。

今回、衣装スタッフとしてたくさんの貴重なチャレンジができたこと、クリエイティブを発揮できたこと、メンバーのサポートができたことを心から嬉しく思います。

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